アンティーク腕時計専門店|アドヴィンテージ - advintage -





Art Deco & Porcelain Dial.
2019.03.20 Wednesday | category: Theme

腕時計が本格的に実戦に投入され始める契機となった第一次世界大戦。その際にあった様々なケースデザインのバリエーションのひとつに、クッションシェイプがありました。

角形のようでいて緩やかにカーブを描くユニークなシルエットが、まるで座布団の形のようであることがその名の由来。もとはミリタリーウォッチに端を発するトレンチデザインながら、ドレスウォッチの典型として1940年代末頃まで好んで用いられたスタイルのひとつです。
 


1940年代に製造されたこちらの銀無垢と金無垢のクッションケースモデルは、ポーセリンダイヤルや針のデザインなど、懐中時計のディテールを多分に残したスタイルが特徴的。

こうしたクッション・デザインは、1950年代以降はほとんど目にしなくなります。アール・デコ期、半ば狂騒的に巻き起こる、ラウンド形ケースからの脱却という潮流の中で生まれた、徒花的クラシックと言えます。

 

 

 

 


その独特の乳白色が魅力的ですが、他方その扱い方にも注意が必要なのがポーセリンダイヤル。基本的にメタル製のベースプレートに乗っているとは言え、硬い床の上に落下させたり強くぶつけたりすると割れる可能性があるので、ラフな扱いは禁物です。

こうしたポーセリンダイヤルをはじめ、懐中時計のディテールを継承するクラシックな腕時計は、扱う人自身も当時のことに少し思いを馳せる必要があります。移動・通信手段が発達した今ほど時間がスピーディに過ぎていなかったこと、「メンテナンスフリー」なんて言葉はない時代だったこと。

アウトドアやタフな環境で使う時計はそれ用のものがあったし、ドレスウォッチはドレスウォッチとして然るべきシーンで、いずれも大切に着用するものでした。ドレッシーな場面でダイバーズウォッチとか、たとえロレックスでも本来は場違い。昔と今とでは、腕時計に対する意識がだいぶ変わっているとは言え、長い年月を経た旧い腕時計を身につけるなら、それなりの敬意を払うべきなのかもしれません。

メンズファッションにおいてはことさら、腕時計にもビジネススーツのような汎用性が重視される昨今。装身具をシーンによってきちんと使い分けることを意識すれば、気分も少しリッチになる気がします。



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HERMÈS meets Mido.
2019.03.10 Sunday | category: Theme

1937年のこの雑誌広告。あのエルメスが、〈ミドー〉のマルチフォートとのダブルネームモデルを販売していたことを示す貴重な資料です。

1937年といえば、アール・デコのデザイン潮流の成熟期。その広告デザインにも直線的、幾何学的な様式が凝縮されています。
 

 

 


ローマ数字が並ぶ全体像は時計の文字盤を模しており、エルメスの頭文字”H”のシルエットの内側には、アール・デコ期の広告に好んで用いられたサンバーストと呼ばれる放射状のライン。細かい文字の羅列によって外周にトーンを落とす憎い演出も見逃せません。 ちなみにこの文字の羅列は、 ”LA MONTRE POUR TOUS LES SPORTS LE SKI L'ÉQUITATION LE GOLF LE TENNIS LE YATCHING”(THE WATCH FOR ALL SPORTS SKI HORSE RIDING GOLF TENNIS YATCHING) と、 “MIDO MULTIFORT” と書かれています。

 

 



アール・デコは、当時急速に発達した自動車や飛行機、スポーツの隆盛という時代背景がもたらしたデザインであったことは前回書きましたが、このミドーのマルチフォートもその潮流の中で生まれたスポーツウォッチの最先端のひとつでした。

一流のファッションブランドが、ドレスウォッチではなスポーツウォッチを売るということは、当時として考えてみると意外にも稀なケースかもしれません。1930年代に〈ミドー〉が放った、防水・耐磁・自動巻きの三拍子を揃えた当代きってのハイパフォーマンスモデル、「マルチフォート」。エルメスはこの腕時計に自社ロゴを入れたダブルネームモデルを別注し、それにエルメス製のレザーベルトを装着して販売していました。

 

 

 


当時の革新的な技術を詰め込んだ機能性とアール・デコの様式とが混ざり合い、独特の機能美を生んだこの腕時計が愛したエルメス。それを踏襲するかのように、近年スマートウォッチの雄、〈アップルウォッチ〉をショップで展開しました。エルメスの審美眼は、90年前と今と、全く色褪せていないようです。

当時エルメスがミドーに別注していたものと同型の腕時計が、現在数点ございます。是非お見逃しなく。



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Monthly Collection Theme: "Art Deco, circa 1930'S-40'S"
2019.03.05 Tuesday | category: Theme

腕時計の歴史において最初の画期となる時期として1920年代が挙げられます。

 

この時期、腕時計はその製造数において懐中時計を逆転し、凌駕したのがちょうど1925年から35年の10年間でした。ハイスピードの自動車や船、飛行機が発達したマシン・エイジと呼ばれるこの時代、スポーツが盛んとなり、記録がニュースとなった世相を反映してか、スピードが重視され、時間が秒単位で注目されるようになった時代でもありました。

 

女性の社会進出が拡大したのもこの時代でした。1927年にメルセデス・グライツ女史がロレックス・オイスターを腕に着けてドーヴァー海峡を泳ぎ渡ったニュースは、これらのキーワードをまさに凝縮したものと言えます。

そしてこの時期に花開いたデザイン潮流として知られる「アール・デコ」。幾何学的で直線的な装飾スタイルは、この時代に生まれた工芸品や建築物、ことさら機械による大量生産品の多くに強い影響を与えましたが、時計というファッショナブルにしてメカニカルな小さな「マシン」は、このアール・デコが具現化するのに最も適したアイテムでした。
 

 

 

第一次大戦が終わり、狂騒の20年代にピークを迎えたアール・デコは、同じ時期ツタンカーメン王墓の発掘がきっかけとなったエジプト趣味などオリエンタルな趣向とも融合しながら、独自の様式美を生みました。

懐中時計ですら、従来の円形ケースの呪縛から徐々に解放されていきました。かつてのアール・ヌーヴォーに見られた曲線的・有機的な装飾は薄れ、直線的・抽象的なモダニズムの萌芽が見て取れます。ただ、過度にアヴァンギャルドなデザインは1929年の世界大恐慌を経て一旦落ち着き、より人々に受け入れられやすい実用的でスムースなデザインへと移ります。

 

今回のコレクションは、そうしたアール・デコが成熟する1930年代から40年代の腕時計が中心となっています。当時のファッショナブルな腕時計はもちろん、スポーツウォッチやドレスウォッチ、果てはミリタリーウォッチに至るまで、さまざまな腕時計にこのアール・デコが用いられていたことが、今回のコレクションを見るとよくわかるかと思います。懐中時計も少しだけ。

 


今回のテーマを最も端的に表すのが〈ミドー〉が製造した一連の腕時計たち。

 

 


一般的なラウンド形だけでなく、多角形の独特の造形美を持つユニークな防水ケースがミドーの代名詞。文字盤デザインにも幾何学的なアール・デコの特徴が前面に出ており、そのバリエーションの豊富さは他を圧倒するものがあります。

アール・デコの腕時計に見られる特徴的なディテールとは、鉄道線路を意匠化したレイルウェイ状のミニッツトラック、三角や同心円、ローマ数字と言ったジオメトリカルな文字盤デザインのほか、直線的な四角いケースも、アール・デコ期に生まれた新しいスタイルのひとつでした。これらの特徴は、特にヴィンテージウォッチの醍醐味とも言える魅力的な味わいがあります。

1920年代から40年代という時代、アール・デコの影響を強く受けた結果、腕時計のプリミティブな情感をたたえつつ、そこでひとつの完成を見た美しい腕時計。これが今月のテーマです。



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Watchcase makers: Francois Borgel (FB)
2019.01.20 Sunday | category: Theme

防水ウォッチケースといえば、ロレックスのオイスターケースが思い浮かぶ方も多いと思いますが、それ以前、19世紀末から様々な防水構造を持つケースを発明・製造していたのが、〈フランソワ・ボーゲル〉です。

1920年代からタウベルト社(Taubert & Fils)に吸収された、一般的にはそれほど知名度の高くないサプライヤーの一つですが、モバードやミドーなど様々な腕時計がこぞってそのケースを採用し、雲上ブランドのパテック・フィリップすらそのファミリーに入るという信頼の高品質を誇る、知る人ぞ知る名門。そのケースデザインも多彩で、「こんなものも?」というレベルで豊富なバリエーションを見ることができます。


 


ウォッチケースメーカーに焦点を当てている今月の渋谷店では、このボーゲルケースのバリエーションが多く揃っています。画像はその一部ですが、こうしてずらりと眺めてみると新鮮。

 

 

 

 

 


ボーゲルケースの代表格が、モバードとウエストエンド・ウォッチカンパニー、そしてミドー。モバードで特に有名なのが、右のようなユニークかつ力強いラグデザインが特徴の、「アクヴァティック」と称されるスポーツモデル。左のウエストエンドはミドーが製造を手がけた「マルチフォート」で、バンパー式自動巻ムーブメントを搭載した珍しいモデルです。

 

 

 

 

 


モバードのカレンダーウォッチと、ブラヴィントンズ。いずれも通常よりやや大振りなラージサイズのボーゲルケース。小振りなサイズが目立つ中で移植の存在感。

 

 

 

 

 


こちらは〈ミドー〉の英国陸軍"ATP"モデル。民生用ながら高い防水性と視認性、耐衝撃性を備えるミドーの腕時計が、その性能を買われ軍用時計として英国陸軍にそのまま応急的に納入された珍しい個体です。ボーゲルケースの高い信頼性は、英国軍にも波及していました。

裏蓋にお決まりのATP(Army Trade Pattern)とブロードアロー、そしてブローカーとなった英国の宝石商〈ブラヴィントンズ〉のネームが刻印されていますが、本来商品として販売する個体だったため、英国軍への納品前に手彫りで後から彫られているのが特徴。

 

 

 

 

 

 


この10角形の裏蓋にピンときたら、ボーゲルケース。是非渋谷店でその魅力に触れてみてください。



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"The greatest little known" watch case makers.
2019.01.03 Thursday | category: Theme

悩みに悩んだ年明け一発目のテーマ。


毎年この時期はいつも原点を思い起こしながら、どんなテーマだとadvintageの腕時計の魅力を表現できるか、モヤモヤとそのシルエットを頭の中で描いては消しを繰り返すのですが、今年は本当に時間がかかりました。そしてふと、普段お客様との会話でしばしば出てくるのがウォッチケースの話題だったことを思い返しました。

腕時計はムーブメントのみならず、文字盤や針、ケースといった外装を構成する要素もまた、さまざまなサプライヤーが絡んでいます。中でもウォッチケースにおいては、自社が手掛けた製品をあえて区別するかのように、自社のロゴをケースに刻印するメーカーが当時いくつか存在していました。

スイスの〈フランソワ・ボーゲル〉、アメリカの〈スター・ウォッチケース・カンパニー〉、そして英国の〈デニソン・ウォッチケース・カンパニー〉。彼らは腕時計が急激にその着用環境を広げた20世紀前半、革新的な防水設計や美しい外観を持つケースデザインを数多く生み出したことで知られています。おそらく数多く時計を見ている人なら、その美しい佇まいや質感の違いは見た目で判別がつくと思います。それくらい素晴らしいものです。

今では存在していない、もしくはほとんど知られていないアノニマスメーカーが、パテック・フィリップやロレックスにも供給していたメーカーのウォッチケースを使う。このようなことが当時しばしばあったということは、ヴィンテージウォッチの奥深い価値を示唆する事例として注目に値します。

新年早々マニアックなテーマではありますが、ウォッチケースは腕時計の魅力や価値を左右する重要なファクターです。今回は代表的なメーカーにフォーカスしますが、そのリッチなデザイン性、クオリティの高さにタッチしていただければ。

本年初回の渋谷店営業日は1/8になりますので、ご都合が合えば是非。


 

 


それでは新年あけましておめでとうございます。心躍るような、そしてまだ見ぬヴィンテージウォッチを、今年もひとつひとう地道に丁寧にご紹介してまいります。



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